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機械工学科 小島 一恭 教授


熱力学と計測・制御を軸に、
世の中に役立つモノを作り出す

機械工学の面白さは「何でも作れること」にあると話すのは、機械工学科の小島一恭准教授。 その言葉通り、この研究室では医療介護福祉、農業、車両設計をテーマに多彩な研究に取り組み、 ハードからソフトまで、すべてを自分たちの手で作ることを楽しんでいます。

LED照明を使った競技用車いすの位置推定技術の開発

本研究室では、熱力学と計測・制御をベースに、特に「医療介護福祉」「農業」「車両設計」の3分野への応用研究に取り組んでいます。分野ごとにいくつかのサブテーマをもち、同時に数多くの研究テーマを進めています。

医療介護福祉分野では、車いすバスケットボールの競技や練習をサポートするための位置推定技術の開発に取り組んでいます。位置推定とは、分かりやすく言うと「位置を知る」ということですが、皆さんが真っ先に思いつくのはGPSだと思います。外出先で位置を知りたいときにスマートフォンを取り出してGoogleマップに自分の位置を表示するのは、今や、世界中で当たり前の光景となっています。これは、スマートフォンにGPSのレシーバーがついていて、GPS衛星からの電波を受信して位置推定を行い、地図上に表示しているわけです。

屋外スポーツでは選手に小型のGPSレシーバーを取り付け、プレー中の各選手の位置を追跡、記録し、プレーの良し悪しを判断したり、戦略立案に活用されるようになってきています。ところが、車いすバスケットボールのような屋内スポーツでは利用が進んでいません。これは、屋内ではGPSの電波を受信しづらく、精度が落ちるという問題があるためです。

そこで、屋内で位置情報を得る手段として、蛍光灯や白熱電球に替わる照明として一般的になったLEDに着目しました。本研究室で開発した技術では、LED照明を、人間の眼には分からない程度に、ある特定のパターンで発光させ、その発光パターンの中に情報を埋め込みます。その光を車いすに取り付けた全方位カメラで撮影すると、LEDの写っている位置と発光パターンに埋め込まれた情報から、車いすの位置を推定することができます。この技術を使うことで、車いすバスケットボールの試合中のプレーログをとって戦略立案に活用したり、ほかにも、テレビでの試合中継の際に、選手の位置に合わせて情報表示をするようなことにも役立てられると考えています。

高齢者や障がい者の安全をサポートする技術も

医療介護福祉の研究では、ほかにも、センサーつき車いすや筋疲労測定装置など、高齢者や障がい者をサポートする機器や装置を開発しています。

センサーつき車いすには、ハンドリムへの力のかかり具合を検知するトルクセンサーや路面形状を測定するレーザーレンジファインダー、位置情報を取得するGPS、距離や速度を計測する加速度計など複数のセンサーを搭載。それらのデータを組み合わせて、車いすの使用中に走行困難な箇所を地図上に自動的に記録するシステムを開発しています。

バリアフリー化が進み、エレベーターやスロープの設置が増えましたが、車いすではマンホールや点字ブロックなどのちょっとした段差でも乗り越えることが難しく、妨げとなります。車道に向かって下がっている微妙な傾斜など、車いすにとって危険な箇所はたくさんあります。そのような車いすの妨げとなる箇所を一つずつ人の目を使って調べていくことは多くの時間と労力が必要です。そこで、普段、車いすを使っている間に、走行の妨げとなる箇所を、情報として記録していき、その情報が役所などに伝わり、道路の改善につながるようにすることが目的です。

このほか、感覚が鈍くなる高齢者が安全にトレーニングをできるよう支援する筋疲労測定装置を開発しています。筋疲労がたまると筋電データの周波数が下がることを利用して、筋疲労を予測するアルゴリズムを構築しました。トレーニング中の筋電データを時系列で見ていき、周波数が下がったときに「これ以上負荷をかけてはいけない」というタイミングを“ニコちゃんマーク”で表示するなど、分かりやすく伝える工夫をしています。

熱と音で樹木の健康診断

農業分野では、ヒートパルス法という熱を利用した樹液流センサーの開発に取り組んでいます。携帯電話の規格が第4世代(4G)から第5世代(5G)に移行すると、さまざまなセンサーがインターネットに接続されるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の時代がやってきます。温度、湿度、照度、二酸化炭素濃度、土壌水分などさまざまなセンサーを利用して非常に多くのデータを収集し、より効率的で安定的な農業生産に役立てようという動きがあります。樹液流センサーもその一つで、植物を直接測定するところに大きなメリットがあります。果樹園などでは、樹液流を計測することで成長具合や収穫のタイミングなどがわかるとされています。ところが、センサーが高額なことがネックとなって普及が進んでいません。そこで、本研究室では、より低価格の樹液流センサーを開発しようとしています。

センサーの開発ではキャリブレーションと呼ばれる測定値の較正が必ず必要になります。実際の樹木を使ってセンサーのこう正を行いたいところですが、実際の樹木では、樹液流が1日の中でも時間帯によって変わりますし、季節によっても変わります。そのため、センサーのこう正には向いていません。本研究室では、樹木を模擬した実験装置を製作し、点滴に使う医療用の輸液ポンプを活用してこの中に液体を通し、樹液流が一定の状態でセンサーのこう正に利用できるような装置を開発し、実験を進めています。

樹液流センサーは樹木に細い管を刺して温度を計測しますが、高感度な超音波センサー(エレクトレットセンサー)を使い、非侵襲・非破壊で植物内部の活動状態を調べる研究も行っています。いわば、植物の聴診器です。このセンサーならば、針などを刺すことのできない野菜や果物を調べることも可能です。埼玉大学の蔭山研究室との共同研究で開発を進めており、私はセンサーまわりの電子回路やソフトウェアなどデバイス全般の開発を担当しています。

高価なセンサーと同じ性能のものを安価に実現!

樹液流センサーと同じように、「高価なセンサーやデバイスを、テクノロジーを駆使して安価に実現したい!」という思いから研究に取り組んでいるものはほかにもあります。

今研究しているのは、燃料噴霧の可視化技術です。自動車メーカーがエンジン開発をする際、燃料が噴霧されている状態を解析するために、超スローモーション動画で撮影します。その時に使用する高速度カメラは、安いものでも1000万円級。それに対して私たちは、15万円程度の市販のデジタルカメラで同じ性能を達成することにチャレンジしています。

市販のデジタルカメラは画素数こそ高いものの、1秒間に処理できるフレーム数が高速度カメラに比べて何百分の1です。そこで、1フレームより短い時間で少しずつずらしながら100回撮影し、その後、コンピュータで画像を重ね合わせました。撮影のタイミングをぴったり1/100ずつずらすのは至難の業ですが、工夫を重ね、疑似的にではありますが高速度カメラと同等の超スローモーション動画が得られました。これならば、お金をかけられない学生でも可視化技術を使えて、例えば、学生フォーミュラ大会に出場するマシンなども、さらに効率的なエンジン設計ができるようになります。

ポケバイ分解組立実習を通して機械リテラシーを身につけてほしい

機械工学科は、機械を扱う学科ですが、近年は入学するまで、機械いじりをしたことのない学生が少なくありません。そんな新入生たちに機械工学の面白さを、身を持って知ってもらうために、ポケバイ(ポケットバイク)の分解組立実習を行っています。この実習を通じて、工具や部品の名称、規格、機構について学ぶなど、機械工学のリテラシーを身につけることが目的です。また、低学年のうちに自分の勉強がどのように役立つのか、目的意識を持ってもらいたいという意図もあります。

私自身、機械に興味を持ったきっかけがオートバイでした。一方で、小学生のときにゲームにはまり、独学でプログラミングをするようになったので、研究では機械も電気もソフトもすべてやります。最初から最後まで、全部触って、全部自分で作りたいという気持ちを強く持っています。自分がこれまで楽しんできたように、学生にも機械工学を楽しんでほしいので、学生から「やってみたい」と声が上がった研究はどんどん取り入れています。その結果、このように多種多様な研究に携わることができています。私自身の専門からは、少し外れるような未知の領域の研究に取り組むことになる時もありますが、このような場合でも、日々、学生とともに産みの苦しみを楽しんでいます。

本研究室では電子回路の設計も、ソフトウェアの開発も行いますが、やはり日本が得意とするのは、産業機械や精密部品などの機械分野です。最近ではその力が弱くなっていると懸念されていますが、日本の未来のためにも、本学から優秀な機械エンジニアが育つことを強く願っています。

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