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情報学部情報学科
情報メディア工学 × 文化財
ゲーム制作技術を応用。幻の文化財をCGで復元!
ここでしか味わえないプロジェクト体験
情報学部 情報学科では、近隣の自治体と協力し、寺や神社などの埋蔵文化財(歴史的・文化的に価値がありながらも天災や火災などで消失し、遺構のみが残っている文化財)を、ゲーム制作の技術を応用して、復元3DCGやAR、VRなどのデジタルコンテンツによって復元・制作するプロジェクトに取り組んでいます。
2004年、鎌倉市から「幻の巨大寺院『永福寺』を3DCG化し、復元させて欲しい」という依頼を受けたことから、このプロジェクトは始まりました。当時の一般的な文化財のCG復元では、制作の難易度を下げるために、本来の建築様式は省略され正しい復元CGが制作されていないケースが多くありました。本プロジェクトでは、リアルな復元に向けて「永福寺」の発掘調査資料で明らかになった遺構の柱の位置などを基に、考古学や建築学の専門家と一緒に永福寺の推定図面を作成しました。その図面から、多くのゲーム会社や映画会社が使用している3DCG制作ソフトMayaを用いて永福寺の復元3DCGを制作しました。最初の公開は2004年ですが、制作した3DCGから新たに判明することもあり、“作っては修正”を幾度も繰り返し、10年以上の時間をかけて「永福寺」の復元CGコンテンツが完成しました。その後もコンピュータの進化に伴い「VR永福寺」や「AR永福寺」も展開され、現在も鎌倉市の国指定史跡・永福寺や鎌倉歴史文化交流館で体験することができます。
これがきっかけとなり、綾瀬市からもデジタルコンテンツによる復元依頼を受け、同市の国指定史跡「神崎遺跡」のCG・AR・VRコンテンツやプロジェクションマッピング、綾瀬市を流れる目久尻川流域の遺跡を紹介する「目久尻歴史スタンプラリー」アプリ、「AR宮久保遺跡」「AR早川城跡」などを手掛けています。
ますます可能性広がるデジタルコンテンツ
プロジェクトの中でも、鎌倉市の「北条義時法華堂」のデジタルコンテンツ化は、鎌倉時代第二代の執権で、2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公にもなった北条義時をまつる墓所として話題になりました。ドラマの放送決定を機に、2021年に「法華堂」の復元プロジェクトが始動。2022年には史跡内に設置されたARマーカーをスマートフォンなどで読み取ると、現地の実際には何もない平場で、スマートフォンの画面内に実寸大に再現された「法華堂」が表示され、歩いて移動することで外観や内部が鑑賞できる「AR北条義時法華堂」が完成。2023年にはヘッドマウントディスプレイを装着して仮想空間内で「法華堂」の外観や内部を見学できる「VR北条義時法華堂」も完成し、鎌倉歴史文化交流館で展示されました。各コンテンツは、発掘された建物の礎石や雨落溝(屋根から落ちる雨を受ける石の列)などの跡を基に建物の形状を推定し、現存している鎌倉時代の類似の寺を参考にして3DCG化を図りました。
自治体が埋蔵文化財を観光資源として活用したいと思っても、現存しない建造物を再現するには大変な費用がかかります。しかし、コンピュータの進化に伴い、デジタルコンテンツで表現できることの幅がますます広がり、自治体をはじめ地域に貢献する活動につながっています。
観察力と論理思考の重要性
コンテンツ制作は、華やかな面が強調されがちですが、人に使ってもらう、楽しんでもらえるコンテンツを作るためには、プログラミングやCG制作ソフトについて学ぶだけではなく、観察力や論理思考を身につけることが重要です。モノがどのように作られ、どのように使われるのか、その形状にどのような意味があるのか、それを知らなければ3DCGを作ることはできません。
プログラミングも同様で、何を、どの順番で、どのように操作するのか、整理して構築していくことが求められます。これらの能力は、ただ漫然と技術を学ぶだけではなく、普段から物事をよく観察・分析することで身についていきます。
例えば、VRコンテンツを制作するときに必ず直面する「VR酔い」の問題は、VRの特性として、これまでのコンテンツ以上にリアリティが求められるため、作り込みが甘いとリアルとバーチャル空間の感覚のギャップによって発生します。人間の普段の動作、移動の速度や慣性、視点移動などをどれだけリアルに近づけられるかによって軽減させることができます。ただし、そこにも人を観察・分析し、整理、構築することが求められます。コンテンツの完成までには粘り強さと努力、エネルギーが必要ですし、主体的に学びを吸収し、さまざまなことに果敢にチャレンジする姿勢も大切です。
復元プロジェクトは、文化財をデジタルコンテンツ化することがゴールではなく、文化財という地域の宝を未来へつなぐためのコンテンツでなければなりません。それには、どのような形や方法がいいのかを自治体の方々と一緒に考えコンテンツに落とし込んでいく。そうした制作プロセスを通じて、発見や気づきを得られ、きっと自己成長につながるはずです。
情報学部 情報学科には、文化財の復元プロジェクトをはじめ、文系と理系、リアルとバーチャル、さまざまな分野を跨いで最先端テクノロジーを体感的に学べる環境があります。
X-Tech LaboratoryLaboratory
【 未来を創造する研究室がここにある 】井上 道哉 助教
高校時代、当時はまだ珍しかったのですが、先生が「情報」の授業の中でパソコンを使ったホームページ作成を経験させてくれました。Windows 3.1バージョンの頃です。プログラミング言語のHTMLを学び、書いたものを先生がサーバーにアップロードし、実際にインターネット上に公開してくれました。今思えば、やることがとても進んでいましたね。先生との出会い、そしてこの体験がきっかけとなり、“コンピュータを使って色々やるような学科”に入りたいという気持ちが強くなり、情報工学を学ぶためにシステムコミュニケーション学科(当時)の1期生として湘南工科大学に入学しました。受験の際は学科もできていなかったため、どんなことができるのか具体的には分からなかったのですが、CGやエンターテインメント系コンテンツの制作ができると知ってワクワクしたことを覚えています。
大学入学後に大きな転機がありました。所属した研究室の長澤先生(2023年度まで情報学部 情報学科/工学部 コンピュータ応用学科 教授)から、「ゲーム、つくれるよ」と言われて、先生の指導の下で何本かゲームを制作。とにかく楽しくて夢中になりましたが、次第に自分の限界を感じるように。そこで「インターネットやサーバー、ネットワークの技術を勉強してみたい」と先生に相談したところ「それすごくいいよ、ぜひやってよう」と後押ししてくれました。それで、パソコンを自作し、サーバーの構築からホームページ作成、インターネット上への公開、ホームページの運用までを1人でやりました。さまざまなことに挑戦した経験が今の研究などにも生きています。
学部生時代の友人は、「俺が、俺が」と良い意味で主張が強く、そんな友人たちと切磋琢磨しながらゲーム制作をする機会がたくさんありました。制作中に議論が白熱し、毎日のようにケンカしていましたが、それはモノづくりのためであって、議論が終わればケロッとして仲良く遊びに行く。大学では、そんな素晴らしい仲間たちとの出会いもありました。
情報工学を極めたいと思い、大学院へ進学。鎌倉市から「『永福寺』を3DCG化し復元して欲しい」と依頼があったのは大学院に入ったばかりの頃でした。毎回、研究室総動員で取り組む復元プロジェクトの一方で、「プロジェクト関係者だけでつながれるSNSのようなソーシャルアプリ」をテーマに修士論文を書き、博士前期課程を無事に修了、その後、電機系の企業に就職しました。技術的に分からないことがあると、元々電気回路が専門だった研究室の先生によく相談しており、将来のことも相談するうちに「ドクターコース(博士後期課程)はどう?」と勧められ、研究を続けることになり、現在に至ります。
情報学部 情報学科は、さまざまな自治体と協力して進める文化財に関わる復元プロジェクトが多くあり、チャレンジできる場でもあります。「興味がある、やる気がある、一緒にやってみたい」という人、ぜひ一緒に挑戦しましょう!
専門・研究分野
情報工学、応用メディア工学
研究テーマ
文化財のデジタル化、モバイルコミュニケーションシステムに関する研究
研究キーワード
バリアフリー モバイルコンピューティング バーチャルリアリティ
文化財のCG 復元 プロジェクションマッピング