情報の持つパワーを
工学的に扱う専攻の
学びとは?
情報工学専攻の学びに
潜入してみた。
私たちの身近な情報技術を利用したサービスや商品は、驚くほどのスピードで日々進化している。その鍵を握るのが、情報学部 情報学科の情報工学専攻。さまざまな情報技術を組み合わせることで新たな価値を生み出せる人材を養成するという。そのために、どのような学びを展開するのだろう?早速、情報工学専攻の学びについて浅野教授に話を聞いてみた。
浅野 俊幸 教授研究テーマ:人の知的学習を通したマルチエージェント社会シミュレーション
目に見える技術の裏側に
目に見えない技術がある
シアン:情報工学専攻では、どのようなことが学べますか?
浅野教授:ハードウェアからソフトウェアまで幅広く学ぶのが情報工学専攻です。といっても、なかなか分かりづらいので、今注目されている「メタバース」を例にしてみましょうか。
シアン:メタバースというと、アバターが活動する仮想現実(VR)空間のことですね。(私の住んでる未来では仕事やプライベートで利用させてもらってます!)
浅野教授:はい、そうです。メタバースと聞くと、多くの人が「VR技術」をイメージするかもしれません。確かにそうなのですが、メタバースを構築するための情報技術は非常に多岐にわたっています。まず、仮想空間に入るためには当然ネットワーク技術が必要です。そして、仮想空間で活動するためには感覚器官の情報を収集するセンシング技術も関わってきます。また、空間内で何かを売買するなら、個人情報を漏らさないようにするためのセキュリティ技術も重要です。
シアン:確かにそうですね!
浅野教授:仮想空間といえどもメタバースには街や店舗などが存在します。そのため、「どんな街をつくれば収益が上がるか」「どのような店があれば集客できるか」「どんな広告を表示すれば集客に有効か」など、現実の世界と同じように商業的な議論が求められます。
シアン:メタバースの世界に魅力がなければ誰も訪れないし、収益も上がらないですからね。
浅野教授:はい。そこでまず、現実世界でIoTセンサー等を用いて人の行動を計測し、収集したビッグデータを活用してより魅力的なメタバースを構築していかなければなりません。そして、違和感のないリアリティのある空間とつながるためには、膨大なデータを高速で処理するためのデータベース技術も必要となります。このようにメタバースだけでも、さまざまな技術が組み合わさって成り立っているのです。
シアン:なるほど!VRの技術だけではメタバースは実現できないってことですね。
浅野教授:その通りです。これはメタバースに限らず、現実世界においても同様です。そのため、情報工学専攻ではハードウェアからソフトウェアについて学び、さらにデータベース、ネットワーク、セキュリティ、センシング技術、メディア工学、人工知能など幅広い分野を取り扱うことで、「さまざまな技術を組み合わせて、価値あるものを創造する」ことを目的としています。
シアン:それが情報工学専攻の学びの特長なんですね。
浅野教授:はい。さらに情報学科の特長である、ICTの10分野をひと通り学び、課題解決のプロセスを体験するための協働作業の場が1年次から授業に組み込まれています。仲間と課題に取り組む経験をしながら自らの「やりたいこと」を見つけていくのです。そして、2・3年次には専攻や学年を越えて「やりたいこと」が同じ学生たちが集まって、一緒に課題解決に取り組みながら「できること」に変えていきます。
シアン:他専攻の学生とも協働作業するなんて、いろいろな面で刺激を受けられそうですね!
浅野教授:それも目的の一つですが、何かを実現しようとするとき、一つの分野の知識だけでは物事を価値あるものにするのは非常に難しいものです。だからこそ、幅広い知識を修得した学生がそれぞれの知識や技術を持ち寄り、価値ある創造につなげることがねらいです。
シアン:人工知能専攻や情報メディア専攻の学生と、情報工学専攻の学生が組んだら、確かにどんなものでも実現できそう!ちょっとワクワクするなあ〜。
さまざまな技術を組み合わせ
新たな価値を創造する人へ
シアン:浅野先生の研究テーマを教えていただけますか?
浅野教授:私の研究テーマは、「人の知的学習を通したマルチエージェント社会シミュレーション」です。具体的には、人の行動を数値モデル化してコンピュータで計算することにより、災害発生時の環境と群衆の避難行動をシミュレーション予測しています。
シアン:この画像は、どのような災害を予測したものですか?
浅野教授:これは大きな河川に囲まれた海抜0メートル地域における洪水からの避難シミュレーションです。このような地域では、河川が氾濫したら住民はどこに避難すればよいかが非常に大きな課題となっています。そこで、二つの視点からシミュレーションで予測しています。一つは、どのように浸水するかというもの。青色の部分が浸水しているエリアです。もう一つが、数値モデル化した人の避難シミュレーション。画面の粒が人を表していて、どのようなルートで避難所に向かうかを予測しています。
シアン:多くの人が水につかりながら避難していますね。
浅野教授:水がどこから来ているか分からない人たちも大勢います。そうすると、あらかじめ決まっている避難所に向かうだけでは安全に避難することができません。そこで、このようなシミュレーションによって、どこから水が来るのか、どこに避難すればよいのかを事前に議論できますし、行政と地域住民との間で意識を合わせることができるようになります。
シアン:これは河川の洪水を想定されていますが、津波などにも応用できるんですか?
浅野教授:そうですね。ただし、津波の場合は水が来た時には手遅れになってしまいますので、災害状況の想定はより複雑になります。
シアン:このような予測シミュレーションはどのようにつくるのですか?
浅野教授:基本的にはコンピュータ上で数値計算を行っていますが、大切なのは人の歩行・行動を数値モデル化することです。そこで、IoTセンサーを使って人々の歩行状況を観測し、観測から得たビッグデータを解析して行動をモデル化します。ところで、通常の避難訓練ではのんびり歩けますが、本当の災害であれば全力で走りますよね。
シアン:はい、一目散に逃げると思います。
浅野教授:さらに、避難所に逃げ込む前に、逃げ惑う人たちとぶつかるかもしれませんし、車などの障害物もあるかもしれません。そこで、VR技術を使って仮想空間の街に災害を発生させ、避難を体験することでさまざまな行動データを収集するのです。本来であればリアルな行動データを用いればいいのですが、残念ながら災害時の避難行動のデータというのはありません。なぜなら、あらかじめデータ収集の準備をすることができないからです。そこで、VR技術を使うことでデータを収集しようとしています。
シアン:だからリアルなシミュレーション予測ができるんですね。この研究は、今後どのように活用されていくんですか?
浅野教授:すでに自治体や大規模施設から避難や混雑時の誘導に活用したいという話がきていますよ。
シアン:地域の防災や減災に役立ちますもんね。
浅野教授:はい。さらに今後は、ある地域に大型施設や人気の店舗ができたら、人の流れはどう変わるか、道がどのように混雑するかなど、平時の都市開発シミュレーションにも活用できると考えています。
シアン:そっか、都市開発にも応用できるなんてすごいなあ〜。浅野先生の研究室では、学生の皆さんはどのようなテーマの研究に取り組んでいますか?
浅野教授:やはり、自分の住んでいるエリアの危険性について研究している学生が多いですね。河川のそば、海岸沿い、山の近くであれば土砂の危険性など、身近な場所をテーマにしています。ほかには、交通シミュレーターを使った混雑緩和の検討や、IoTセンサーを用いた歩行解析などに取り組んでいる学生もいますね。
シアン:情報工学専攻ではどのような力が身につきますか?
浅野教授:まず、問題意識を持てるようになります。さらに、ある問題を解決するために自ら調べ、どうしたら実現できるかを考える力が身につきます。そして、ハードウェアからソフトウェアまでさまざまな技術を学びますので、それらを組み合わせて一つのやりたいことを実現するための力も身につきます。
シアン:卒業後はどんな分野で活躍できますか?
浅野教授:今はどのような産業分野であっても情報技術は欠かせません。したがって、IT企業のみならず、物流業や小売業など幅広い分野で活躍できる人材を目指すことができます。
シアン:確かに、さまざまな技術を組み合わせて創造する力は、どの企業からも求められそうですね!
浅野教授:その通りです。どうしても「目に見える情報技術」に注目が集まりやすいのですが、その裏側には「目に見えない情報技術」がたくさん隠されていることを知ってほしいですね。そして、皆さんが描く未来には、この「情報技術」が大きな影響を与えてくれるはずです。仲間たちとの協働作業を通じていろいろなスキルを磨いてもらい、卒業後は自分の興味・関心のある分野に進んでもらえたらうれしいですね。
シアン:(ムム、もしかしたら情報工学専攻で学んだ人たちが、私たちが住む未来社会の礎を築いたのかもしれないぞ。これは貴重な情報だ…)浅野先生、ありがとうございました!
※内容は取材時のものです。
(2022年6月1日更新)
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